「ただ、それほど複雑な作りではないとはいえ、ここで教えるわけにもいくまい」
「ええ、そうですわね。それは錬金術ギルドに帰ってからという事で、今は館を見て周る事にしましょう」
魔道具の作り方は、口で説明するよりも作ってみた方がよく解るでしょ?
だから水を汲む魔道具の作り方のお話はまた後にして、今はお家ん中を見て周る事にしたんだ。
「まずは一階だけど、来客を迎える部屋や小さなダンスホールがある区画と、調理場やお風呂などのプライベートな区画に分かれているわ」
「ふむ。ダンスホールなどはルディーン君に関係ないであろうから、奥の生活区画を見に行った方が良さそうじゃな」
「ええ、そうですわね」
僕たちが入ってきた入口の近くは、来たお客さんが入ってくることがあるでしょ?
だから壁に飾りをつけたり絨毯を敷いたりして、結構お金をかけてあるらしいんだ。
でもそんなとこ、僕は使わないんだよね。
だからそこは通りながら見るだけにして、奥のお部屋があるとこに行く事になったんだ。
「ほう。調理場はなかなか立派じゃのう」
「多分商会の従業員の食事も、ある程度ここで作るつもりだったのでしょうね」
ロルフさんたちが言う通り、お料理するところはとっても広いんだ。
それにね、ここにはお外に出る小さなドアがあって、そこから出るとすぐに井戸があるからお水を汲みに行くのも楽ちんなんだ。
「じゃが、どうやら魔道コンロは設置されておらぬようじゃのう」
「ええ。でも仕方がありませんわ。この館を作る段階ではまだ、ルディーン君が教えてくれた一つの魔石で複数の魔道具を動かす魔道回路図の情報は出回っていませんでしたから」
「なるほど。大量に作らねばならない料理屋や宿屋ならともかく、ここで作る程度の量では当時の魔道調理具を入れようなどとは思わぬであろうな」
前にね、僕が一個の魔石を置いたとこの回路記号から何個かの魔道具の魔力をとる方法を教えてあげたでしょ?
そのおかげでコンロとかオーブンを全部をいっぺんに使わないとこのだったら、あんまりおっきくない魔石でも調理用の魔道具が作れるようになったんだ。
でも前はついてるコンロとかオーブンを全部いっぺんに使えるくらいのおっきな火の魔石を使って作ってたから、ここみたいに貴族様でも高くて買えない人がいたんだってさ。
「じゃがわしの家から人を派遣するとなると、わざわざ薪で調理するのはちと煩わしいのぉ。よし、ここはルディーン君が館を構える祝いとして、わしが魔道コンロを送るとしよう」
「まぁ、それはいい考えですわ」
僕、このお家にはお姉さんたちに住んでもらおうって思ってるんだよね。
だから薪でご飯を作るかまどでもいいんじゃないの? って思ったんだけど、そう言えばロルフさんちの人たちも来るんだっけ。
だったらきっと料理人さんもロルフさんちから来るだろうし、そんな人に薪のかまどを使ってねなんて言えないからロルフさんの言う通り、魔道コンロを入れてもらう事にしたんだ。
「じゃが、調理場でさえこの体たらくでは、他の場所にも何かしらの手を加えなければならなくなりそうじゃな」
調理場を見まわしながらロルフさんはこんな事を言ったんだけど、他の場所を見て周ったらそれがあってるって解ったんだ。
「風呂はあるし、確かに湯を沸かすための魔道具もついておる、じゃがこれだけの湯船いっぱいの水を沸かすのにはちと小さすぎはせんか?」
「それにこの魔道具、火の魔石がついておりません。水を汲む魔道具が無いのには気が付いていましたが、まさかそんなものまでないとは思いませんでした」
お家の奥の方に行ったらおっきなお風呂があったんだけど、でもそのお風呂、すっごくおっきいのにお湯を沸かす魔道具がすっごくちっさかったんだよね。
バーリマンさんはお湯を沸かす魔道具がちっさいって事を知ってたみたいなんだけど、それは人から聞いた話だったからお風呂がこんなに置き位だなんて知らなかったみたい。
だから一人用のお風呂でも、沸かすのにすっごく時間がかかるんだろうなぁって思ってたんだって。
「これでは時間がかかるどころか、沸かした先からさめていくのではないか?」」
「どうでしょう? もしかするとこれはさめた湯を再度温めるための物で、最初の湯は調理場で沸かしたものを運ばせるつもりだったのかもしれませんわ」
バーリマンさんが何でこんな風に思ったのかって言うと、このお風呂が調理場おすぐ近くにあったからなんだ。
それにね、お風呂に水を入れる井戸も調理場とおんなじのを使うようになってるんだけど、このお風呂にはお外に出るドアがついてないんだよね。
だからお湯を沸かしてから、このお風呂に運ぶんじゃないかなって思ったみたい。
「じゃが、それにしては湯舟が大きすぎはせんか?」
「確かにこの大きさでしたら、小さな魔道具をつけるより薪の釜をつける方が効果的でしょうね」
でもね、このお風呂はロルフさんの言う通りおっきいんだよね。
これが一人だけで入るようなちっちゃなお風呂だったら、沸騰するまで沸かしたお湯に井戸から汲んだ水を混ぜて使うなんて事もできるだろうけど、何人かがいっぺんに入れるくらいおっきいお風呂だと持ってこなきゃいけないお湯はかなりいるはずだもん。
それだったらやっぱりもっとおっきい魔道具か、薪で沸かすお釜がついてないとおかしいよねって、みんな頭をこてんって倒したんだ。
「これはあくまでわしが考えた予想なのだが」
そんな時にね、お爺さん司祭様がこんな事を言い出したんだよ。
「この湯舟はあくまで客に見せるためだけの物で、日常的には使わないつもりで作ったのではないか?」
入り口のドアや、入ったとこの階段はすっごく立派だったでしょ?
それにさっき行った調理場だって、薪を使うかまどやオーブンしかなかったけどすっごくおっきかったもん。
そこから考えると、このおっきなお風呂はお客さんが見た時に凄いねって言ってもらえるように、わざわざこんなにおっきく作ってあるんじゃないかなぁってお爺さん司祭様は言うんだ。
「元の持ち主は準男爵であろう? 貴族とは言えその爵位では、日常的にこれだけの規模の風呂に入れるとは思えぬ」
「確かにそう言われると、そうとしか思えなくなりますわね」
貴族様でもね、薪代が高いからって毎日お風呂に入らない人も多いんだよってお爺さん司祭様は僕に教えてくれたんだ。
それなのにこのお風呂はこんなにおっきいでしょ?
それに毎日使うつもりだったら直接井戸に行けるようにって、お外に行くためのドアがついてるはずだもん。
その上お湯を沸かす魔道具までお風呂の大きさにあってないんだから、これは多分いっつも使うお風呂じゃないんだってさ。
「じゃが湯船自体はしっかりとした造りになっておるからのぉ。これを使わないのはちともったいないな」
「そうですわね。火の魔石もついていない事ですし、いっそのこと小さな魔道具は外してしまって大きなものと取り換えてしまいましょう」
お風呂を沸かす魔道具はね、盗まれないようにって魔石やスイッチはお家の中にあるんだけど、本体は火が出て危ないからってお外につけてあるらしいんだ。
だから壁を壊したりお風呂を壊したりしなくっても、簡単に違う魔道具に変えられるんだってさ。
「それに、幸いこのお風呂場のすぐそばに井戸がありますから、ルディーン君に教える時にこのお風呂用の水を汲み出す魔道具も作りましょう」
「そうじゃな。さすればこの風呂も有効に使える事じゃろう」
「それでは湯を沸かす魔道具は、私が用意しますわ。伯爵だけがルディーン君にお祝いの品を送るのは、少しずるい気がしますもの」
さっき、調理場の魔道コンロはロルフさんがお祝いにくれるって言ってたでしょ?
だから湯沸かし用の魔道具は、バーリマンさんがくれるんだって。
「ギルマスよ。そうは言うが、そなたはこの館をかなりの安値で譲る事にしたではないか」
「それはそれ、これはこれですわ。冒険者ギルドで話した通り、別に損をしてまで安くしたのではないですもの。やはり何か祝いの品を送りたいと思っておりましたから、これは渡りに船ですわ」
バーリマンさんがそう言うと、ロルフさんは長いお髭をなでながらしかたないのぉって。
「確かにわしばかりがいい格好をするのは、ギルマスから見れば不服であろうな」
「ええ、私もルディーン君が可愛いのは伯爵と同じですからね」、
バーリマンさんはね、今日お家に帰ったらさっそく魔道具の手配をしなくっちゃって、にっこり笑ったんだ。
貴族って見栄を張る生き物なんですよね。
なので対外的には常に自分を大きく見せようと頑張っていて、この大きすぎるお風呂もそんな見栄の産物だったと言う訳です。
実際のところ、グランリルの村人たちのように、日常的にお風呂に入っている人は殆どいないんですよ。
ガスや電気がある訳じゃないですから風呂を沸かそうと思ったら結構な量の薪がいりますし、その薪も電動のこぎりがある訳じゃないので作るのが大変なだけにとても高いのですから。